書籍・雑誌

2012年1月14日 (土)

『破獄』

広島刑務所で発生した逃走事故のニュースを視たとき、ほぼ反射的に思い出したのが、吉村昭の『破獄』でした。

中身は、昭和の脱獄王と呼ばれた「佐久間清太郎」(仮名)が、脱獄を繰り返し、老い、更生し、そして死んでゆくプロセスを、戦前-戦中-戦後-高度成長期の世相と対比させつつ、吉村さんならではの筆致で描いたものです。私にとって、吉村さんの著作は全てオススメですが、この作品は特にオススメです。

広島刑務所の事件を承けて、某新聞のコラムに実名が登場したり、顔写真まで晒したwebサイトもありますが、素材の性質上多くの登場人物を仮名にせざるを得なかった、という著者の意図に賛同し、ここでは「佐久間」で通します。

この本、私が高校生だった頃に発刊されて、どこかの出版社のプライズを得たものだと記憶しています。確か『スコラ』か何かで紹介されているのを見て(今思うと意外です)、私の関心を惹いたのですが、発刊当時のこと故、ハードカヴァー本しかなく、小遣いもごく少ない身でしたので、文庫化されて買い求めたのは後年のことでした。

圧巻はやはり、難攻不落の網走刑務所からの逃走ですね。周到で粘り強い準備、看守たちに仕掛ける心理戦…言葉は適当ではないかも知れませんが、見事なものです。

脱獄したからといって、真に自由な生活など送れる筈もないのですが、佐久間にとっては、ある種の自己表現手段、人間としての全精力の蕩尽だったのでしょう。安直な言い方ですけど…老いるにつれて、脱獄する気力が萎えていく部分を読むと、そんな風に思うのです。

広島刑務所から逃走した男にとっては、脱獄とは何だったのか、とても興味深いものがあります。

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2009年9月26日 (土)

『輸入食品から学ぶ「貿易と港」の旅~天ぷらそばに世界が見える』

ふとしたきっかけで、大変興味深い本を読んだので御紹介したいと思います。

著者は通関業者に勤務する通関士、つまり港に着いた輸入品を、税関を通すこと(「通関を切る」と云うのだそうです)を生業としている方です。そもそも、そのような商売や、この商売に携わる資格者がいるということ自体も全く知らなかったので、このことを知っただけでも、本書を読んだ価値がありました。

中身は特に天ぷらそばを追いかけているわけではなく、冒頭のさわりに出てくるだけですが、全体の構成は輸入品(主に食料品)が港に着いてから小売されるまでのルートを、税関を通す過程を軸にトレースしています。
また、単にプロセスをトレースするだけでなく、輸入品の価格構成などにもページを割いているので、モノを「輸入」するとは具体的にどういうことなのかが、平易に解るようになってます。

私は流通業界等には無縁ですので全く知らなかったのですが、税関を通す手続きはオンライン処理されているそうで(今時当たり前かも知れませんが)、通常の品物であれば、所定のデータを送信してから輸入許可が下りるまでのレスポンスタイムは10秒!でも、埠頭に山積みになっているコンテナを見れば、これくらいで処理できなければならないわけです。

尤も著者は、日本人の時間感覚とコンプライアンスの観点から、貨物の滞留時間をやたらに短くすればよいわけではないことを示唆しています。

ここでコンプライアンスの話が出てきましたが、著者の目配りは、港のコンプライアンス機能、CS(顧客満足度)、港のブランド化といったキーワードにも及んでいます。

私の理解では、この三つは相互に連関していまして、コンプライアンスとCSが、港のブランド化、つまり「○○港を通って来た品物ならオッケイだ」という世間の見方を導出する、ということになりましょうか。

あっ、何か難しそうな本だと思われるのは著者の本意ではないかと思いますので付言しますが、所々に「コーヒーブレーク」のコーナーがあって、楽しくて役に立つミニコラムが載っています。

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2008年12月31日 (水)

悪文家?

ずっと読みかけになっていた、D.ハルバースタムの『メディアの権力』を何とか読了した。

本当に読むのがしんどかった。内容の問題ではない。多分、読みにくい文体なのだと思う。というのも、他の訳書を読んだ限りでも、いずれも同様の感覚を持っている。

学生時代、M.ヴェーバーの本を読まなければならなくて、冷や汗をダラダラ流していたことを思い出す。特に岩波文庫の『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』旧版は堪らなかった。そんなとき、ちょうど大塚久雄監訳の新版が出て、ようやく通読できたときは嬉しかった。

横に逸れた。ハルバースタムの訳書で一番読み易いと思ったのは新潮文庫版『さらばヤンキース 運命のワールドシリーズ』だった。

名手・常盤新平の手になる翻訳で何とか普通に読めるというレベルだから、読む側(私)の絶対的言語能力の問題は別にして、難読本が多いのは間違いない。

こういう話をすると、「原書を読めば解るよ」と言われたりして、結構恥ずかしい。やはり学生時代のこと、とあるドイツの学者の訳本を読むのに四苦八苦というか七転八倒していたら、先生から「英語版で読むと、だいぶ違うよ(解るよ)」と言われた。

じゃ、ハルバースタムの本は、ドイツ語版で読んでみるか。

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2007年5月 6日 (日)

西武ホールディングスの社長

今、テレビ(11ch)で西武ホールディングスの入社式の模様が映っていたけど、社長の名前に見覚えがある。

「後藤高志」

私の記憶では、旧第一勧業銀行が総会屋等との御交際スキャンダルで混乱した時、改革派中堅幹部「四人組」の一人として事実上、行内を仕切った人物の一人である。当時の肩書きは企画部副部長。

西武グループは旧興銀あたりと比較的関係が深かったから、みずほから社長が送り込まれるのも違和感はない。

私は高杉良の作品が好みで、『金融腐蝕列島』シリーズの中でも<呪縛>が一番面白かった。高杉の難点は、「代わる」「替わる」「換わる」の使い分けができていなかったり(これは編集者の責任でもある。猛省せよ)、常套句=クリシェが多過ぎることかな。ホンカツなら、悪文の典型として槍玉に挙がるところ。

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