Wish Allan Holdsworth: Velvet Darkness いわゆるフュージョンのファンの方にとってはヒーローでしょうねえ。アラン=ホールズワース。後年の作品程には彼の特徴(ピッキング・アタックの無いところとか)が表れていません。この曲は確か、トニー=ウィリアムズのアルバムにも別題名で収録されていたように思いますが、もしかしたら、ホールズワースが作曲したものではないかも知れません。「フュージョン」らしく、レーベルはCTIなんですね。 (★★★★)
Lean Years Doug Raney: Cuttin' Loose 私の偏愛ギタリスト、ダグ=レイニー若き日の一作。最近、国内盤が再発されたようです。
ダグはシングルトーンでごりごり押していくタイプだからでしょうか、ピアニストとの共演が結構あって、この盤はピアノ・トリオをバックに、サックスとのフロント・ラインと。ピアノが抜けると、この後の'Listen'になりますな。
この曲はパット=マルティーノの作品ですが、特に若い頃のダグにはマルティーノの影響が色濃いように思います。 (★★★★★)
Hazard Profile Part 1 Soft Machine: Bundles 元々はいわゆるカンタベリー系プログレッシブ・ロックのバンドと認識されていて、フリー(アバンギャルド)・ジャズのエッセンスたっぷりの演奏が持ち味だったのが、メンバーの異動が激しく、途中からフュージョン系の音作りに変わったソフト・マシーン。
このアルバムの時代(1975年)はアラン=ホールズワース(g)のカラーが前面に出ています。 (★★★★)
Inner Urge David Kikoski Trio: Live At Smalls 芋づる式セレクションでーす。""Inner Urge"、いい曲ですねぇ。私は何故か、キコスキというピアニストが好きなのですが、こういう少しねじれた曲になると、彼の良いところが特に出てくるような気がします。
毎度のことながら、'Live At Smalls'シリーズは出来が良いです。 (★★★★)
Black Narcissus Jesse Van Ruller: Phantom ほぼ連想ゲーム。サブタイトルが'The Music Of Joe Henderson'って訳です。リニー=ロスネス(pf)のような弟子でなく、ジェシ=ヴァン-ルーラーのような比較的若い世代の、それもギタリストがこの選曲で、しかもギター・ベース・ドラムスのトリオで挑むという意外性。もちろん、意外性を売りにする人ではなく(ジョー=ヘンもね)、作曲者への敬意とオリジナリティが見事に同居。ベースとドラムスはオランダでの気心知れた連中なのか、ジェシとの息も合っています。作曲者としてのジョー=ヘンの魅力を改めて認識できる'60年代名曲集。 (★★★★)
Inner Urge Joe Henderson: Inner Urge 断定的な物言いはしないけど、とても説得力がある人、いますね。ジョー=ヘンのテナーサックスは丁度そんな感じです。名曲を多く産んだ作曲家でもあり、このタイトルトラック、それから2トラック目の"Isotope"は代表格でしょう。
この盤ではバックが、マッコイ=タイナー(pf)とエルヴィン=ジョーンズ(ds)は説明不要のコルトレーン・カルテットの中核、ボブ=クランショー(b)はソニー=ロリンズ一の子分、という誰と演っても素晴らしいメンツで、ジョー=ヘンを引き立てています。 (★★★★★)
Hypochristmutreefuzz Eric Dolphy: Last Date とてもよく知られいる、エリック=ドルフィーの、死の4週間前の記録。もっとも、ドルフィーを好まない人も多いかも知れないので(マイルス=デイビスは嫌いだったようです)、誰にもお勧め出来る盤という訳でもないのですが。
やはり、母国では理解されないという気持ちがあったのでしょうか、晩年のドルフィーは欧州を主戦場にしますが、この盤もオランダ録音。ピアノで加わっているミシャ=メンゲルベルクがとても効いていて、この曲も彼の作品。 (★★★★★)
The Citadel Rodney Green: Live at Smalls 良いドラマーがリーダーになっているコンボというのは、やっぱりいいですね。'Live at Smalls'シリーズ、色々なミュージシャンの作品がリリースされていますが、どれも秀逸。
日本語ライナー付エディションでも述べられているのですが、この曲は今は亡き偉大なトニー=ウィリアムズの作品で、ドラマーならではの好選曲。 (★★★★)
It's You Or No One Dexter Gordon: Homecoming モダン・ジャズ黎明期に活躍、その後欧州へ渡り、パリを根城に数々の好演を残したデクスター=ゴードン(ts)が久々に米国で録音したライヴ盤。名門クラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードで、名手ウディ=ショウ(tp)をはじめとするバックスの好サポートを得て、伸び伸びと演奏しています。先輩C.ホーキンスの名演で知られるラストの"Body And Soul"も良いですが、このトラックもゴードンの好調を克明に伝えています。ちなみに、プロデューサーはBlueNoteオタクのM.カスクーナ。この素晴らしい環境を用意したに違いない彼の熱意にも敬意を。 (★★★★★)
All Of You Miles Davis: My Funny Valentine マイルスのミューテッド・トランペットによるアドリブ・ソロは「卵の殻の上を歩くような」と形容される、サトルでありながら、凄まじいばかりの緊張感に溢れていますが、私がその最高峰の演奏だと思うのが、コレ。トニーは職人的なブラッシュ・ワークに専念していますが、ハービーとロンが魔法使いぶりを存分に発揮。形容ではなく、本当に息を呑むソロが繰り広げられていきます。
だから、マイルスのソロが終わって、ジョージ・コールマンのソロに入ると、ホッとするくらいです。サイッコウ。 (★★★★★)
S.O.S. Wes Montgomery: Full House そう云えば、ウェス=モンゴメリーを取り上げたことが無かったように思います。決して嫌いではありません。バップ路線もファンキー路線もCTI路線も結構気に入ってます。初心者向けのウェス紹介として多々言われるオクターブ奏法ですが、それ自体は特別ではないんですよね。ソロのどういう勝負処で使うかというセンスが抜群なのです。技術は真似出来ないことも無いですが、センスを真似ることは出来ませんからね。
このライヴは有名盤なので多言を要しないと思いますが、バックスが当時(1962年)のマイルスのクインテットそのまんま、相方がガッツの塊ジョニー=グリフィンとくれば、歴史に残るセッションになったのも当然でしょうか。 (★★★★★)
Directions Miles Davis: At Fillmore はい、御存知、電気マイルスの名作、ロックの殿堂フィルモア・イーストでのライヴです。私はプログレ・ロックもアヴァンギャルドも好きなので、電気マイルスが大好きです。この盤の聴き所は、キース=ジャレットのオルガンと、チック=コリアのエレピとの掛け合い。双方、今では想像し難い凄絶なバトルです。マイルスも煽られて絶好調!!この時代のライヴは、大抵この曲で始まります。油井正一さんではありませんが、やっぱり極力大音量で聴きましょう。 (★★★★★)
The Scene is Clean Grant Stewart: Around the Corner グラント=スチュワートの最新作です。今回は、バックスにはピアノの代わりにピーター=バーンスタイン(g)が入った編成です。ソニー=ロリンズの『橋』と同じですね(^^)。グラントの端正なプレイには、ギターが良くマッチしてます。ほんの少し苦言を呈するとしたら、ギターはコード・カッティングのバッキングに長けた人の方が良かった気が…(『橋』をイメージしてしまうからそう思うのかも)。見方を変えて"featuring P.Bernstein"と考えるなら、これでOKですけど。この曲ともう1トラックでは、珍しくソプラノ・サックスを吹いてます。 (★★★★)
School Days Dizzy Gillespie: Complete Studio Sessions 1956-1957 偉大なるディジー=ガレスピー(tp)が、ビッグ・バンドで1950年代に残した3枚のアルバムを纏めたものです。ディジー自身も好調ですし(ヴォーカル入りトラックも多数あり)、ベニー=ゴルソンを始めとするアレンジャー陣の手腕も秀逸。ビッグ・バンドのディジーは、どうしても強烈な波動というイメージですが、'I Remember Clifford'といったスロー・バラードでも流石の出来栄え。季節・天気・時間帯不問で聴きましょう。 (★★★★★)
Dave's System David Hazeltine: Inversions 偶然だと思うのですが、下で御紹介したリニー=ロスネスの"Manhattan Rain"と同じ楽器編成(ピアノ・トリオ+vib+ts)、しかもヴィブラフォンも同じスティーヴ=ネルソンでございます。但し、はっきり申し上げましょう。出来は悪くありませんが、リニーの作品に比べると見(聴き?)劣りがします。小ぢんまり纏まり過ぎているような気がしてなりません。ネルソン以外はお馴染みのCrissCrossメンバーで、エリック=アレキサンダー(ts)も快調だと思うのですが…もっと冒険して欲しいと思うのは贅沢でしょうか? (★★★)
Let The Wild Rumpus Start Renee Rosnes: Manhattan Rain リニー=ロスネスの最新作です。彼女は、ピアノ・トリオも悪くありませんが、今作のように他の楽器(今回はヴィブラフォンとサックス)が入っている方が、トータル・サウンド・クリエイターの才が発揮できているような気がします。そういう意味では、音楽性は全く違いますが、セロニアス=モンクやハービー=ハンコックなんかと共通点があるかも知れません。そんなふうに思うのは、20年近く前、師ジョー=ヘンダーソンにビシバシとカツを入れる姿を間近で見たことがあるせいでしょうか。
元ダンナのビリー=ドラモンド(ds)と演っていたときも良かったですが、今作で起用したビル=スチュワート(ds)も良いサポートを聴かせてくれてます。やはり、ジャズはドラマーがイモではいけません。あと、ジャケ写もカッコ良いです。 (★★★★★)
Smoke Signals Dizzy Gillespie: The Greatest Trumpet of Them All チャーリー=パーカーと共にモダン・ジャズの扉を開いた偉大なるディジー=ガレスピー(tp)が'50年代に残した佳作。5管フロントの八重奏団という、ビッグ・バンドとスモール・コンボのオイシイとこ取りの編成は、名作編曲家のベニー=ゴルソン(ts)の提案になるもので、ゴルソンは、これまた作編曲家に長けたジジ=グライス(as)に助太刀を頼んで、このアルバムを完成させました。全8曲中、ゴルソンが3曲、グライスが5曲を作編曲しています。もちろん、ディジーのプレイも冴えてます。 (★★★★)
I Wish I Knew Jim Rotondi: The Move ジム=ロトンジ(tp)の最新作です。テナー・サックスにベテランのラルフ=ボウエンを迎え、リズム・セクションはOne For Allでもお馴染み、CrissCrossレーベルが誇る不動の3人、デヴィッド=ヘイゼルタイン(pf)・ジョン=ウェバー(b)・ジョー=ファーンズワース(ds)で、ロトンジらしい、けれん味の無いメインストリーム・ジャズを展開しています。
この曲では、ロトンジがミューテッド・トランペットを使って、'50年代マイルスっぽいプレイを披露してくれます。 (★★★★)
How Deep Is The Ocean Paul Motian: On Broadway,vol.3 vol.2も持っている筈なのですが、見当たりません…
vol.3では、ゲストでリー=コニッツが入っています。コニッツという人も、これまた分かり難いというか、リスナーに媚びない、希代のインプロヴァイザーですので、このコンボの雰囲気というかコンセプトにとてもマッチしています(何のこっちゃ)。コニッツも今や80歳ですが、今なお衰えない探究心には最敬礼です。玄人さん向けの盤ですが、五つ星でリスペクト! (★★★★★)
Liza Paul Motian: On Broadway,vol.1 伝説のビル=エヴァンス・トリオをはじめとして、幾多の名演・名盤に絡んできたドラム・マスター、ポール=モチアンの1989年作品。サックスには名人ジョー=ロヴァーノ、ピアノの代わりにギターは当時新進気鋭のビル=フリゼール、ベースは気心知れたチャーリー=ヘイデンという強力な布陣です。中身はタイトルどおり、コール=ポーター、ガーシュウィン、ハロルド=アーレンといった人達の、スタンダード化した曲に斬新なアプローチで迫っています。モチアンも含めて、あまり分かりやすくない音楽をやるメンバーだからか、初めて聴いた時は「とっつき悪いなぁ」と思いましたが、久々に取り出してみると、とても中身の濃い盤で、特にフリゼールのギターが効いてます。 (★★★★)
Skin Deep Duke Ellington: Hi-Fi Ellington Uptown 1950年代のエリントンの傑作。この時代、偉大なアルト吹き、ジョニー=ホッジスが一時的に抜けていますが、若き名ドラマーであるルイ=ベルソンが加わって、バンドの新境地を開いています。
この曲はそのベルソンの作品で、2バスドラムを駆使して(彼は2バスドラム使用の開祖と云われています)、ベルソンが華麗なドラムソロを披露した名曲です。エリントンが得意とする組曲も2曲収録されていて、バンドの魅力を堪能できます。 (★★★★★)
I'll Remember April Sonny Stitt: The Hard Swing 偉大なるアルト/テナーサックス両刀使い、ソニー=スティット。パーカー譲りの切れ味鋭いフレージングを披露するかと思えば、悠揚迫らざるブローで聴き手を魅了します。後藤雅洋さんには「健康飲料のようなジャズ」と皮肉を言われていますが、それだけに余計なサイド・ストーリーの無い人であり、「音」だけで勝負出来る名人。この盤は共演者が1.5流ですが、スティットのプレイには些かの影響も無く、バップの真髄を聴かせてくれます。 (★★★★)
One For Helen Bill Evans: Blue In Green ビル=エバンスが、エディ=ゴメス・マーティ=モレルとトリオを組んでいた頃の生前未発表ライヴ盤。以前にも酷評しておりますが、モレルの太鼓は例によって、全くマッチしていません。せっかく美しいイントロから始まるこの曲がぶち壊しです。湖畔のお城のジャケットでお馴染みモントルーでのライヴにおける同曲の、ジャック=デジョネットの太鼓と比べると悲しくなってしまいます。ただ、エバンスとゴメスとのコンビは最高潮を目指す昇り龍の勢いなので、星四つ。 (★★★★)
Revival Eric Alexander: Revival Of The Fittest CDを聴き始めると芋蔓式になってしまうため、同じミュージシャンが続いてしまいます。
言い訳はさておき、アルバムタイトル、どっかで見たような…そうそう、ハービー=ハンコックの『処女航海』中に"Survival Of The Fittest"って曲がありました。でも、「適者生存=淘汰」は分かりますが、「適者蘇生」ってどういう意味なんでしょうか?生真面目なエリックには珍しく、単なるパロディ?
謎を孕みつつ、相変わらず充実した内容です。 (★★★★★)
Pursuance Eric Alexander: Chim Chim Cheree - tribute to John Coltrane でた~。いつかは絶対やると思っていたこの企画。思ったより遅かったです。尤も「ジェントル・バラッズ」シリーズで、相当濃厚なコルトレーン臭を発していたので、前兆はありましたけど。
本人は、『至上の愛』"A Love Supreme"のPart IIIであるこの曲をはじめとして、凄い集中力で突き進んでいきます。出来ればバックスの人選にもう少し配慮してほしかったです。よって星1個減点。でも本人はやるべき事をやったと思っているだろうし、数年前にブランフォード=マルサリスがやった、醜悪なコピー("A Love Supreme"とロリンズの"Freedom Suite")に比べれば、はるかに意義ある挑戦でしょう。 (★★★★)
The Kicker 矢野沙織: BeBop at the Savoy 前作"Gloomy Sunday"は、ちょっと身の丈に合わないような印象を受けたのですが、今作はタイトルどおり、です(ただ歴史的な言い回しでは"BeBop"かどうかはちょっと…)。
彼女自身は確か『スイングジャーナル』のインタビューで「ルー=ドナルドソンのような音で演奏したい」と言っていまして、多分そういうことを意識して、ドナルドソンが好んだ、オルガンをフィーチュアした編成で臨んだのでしょう。そういえば、オルガン入りのアルバムはこれが3枚目ですかね。
まだ少しハスキーで塩辛い音なので、ドナルドソンのような艶のある音にもっと近付いてもらいたいですね。
今回はゲストにOne For Allでお馴染みのジム=ロトンジを呼んでますが、音楽的には呼ぶ必然性はあまり無いと思いました。無論、彼女にとっては、トップミュージシャンとの共演が明日への糧となる筈です。どこまで伸びていくのだろう? (★★★★)
Nutville Fabrizio Bosso New Project: Black Spirit 今や当代きっての人気トランペッターに成長したボッソの最新作。High Fiveでの勢いはそのままに、"Body and Soul"なんかも演奏して、このっこのっ、つんつん。
というわけで内容はgoodですが、"New Project"を名乗るなら、もっと違ったメンバーにしてほしかったですね。ゲストも二人呼んできてはいますけど、ベースになっているのは気心知れたHigh Fiveの面々ですので。次を期待しております。 (★★★★)
Alone Together Jim Hall: The Complete Town Hall Concert 1990年、ジャズ・ギター界の重鎮、ジム=ホールが、超豪華ゲストを集めたニューヨークはタウン・ホールでの実況録音盤2枚組。
ゲストは、この曲のロン=カーターから始まり、ボブ=ブルックマイヤー、ジェリー=マリガン、ゲイリー=バートンといった人達とのデュオあり、ピーター=バーンスタイン、ジョンスコ、アバクロといったギタリストとの共演あり、With Stringsあり…ジム=ホールは本当にミュージシャンズ・ミュージシャンなんだなぁと思わせてくれます。 (★★★★★)
Dear Old Stockholm Ron Carter: The World Of Ron Carter ロン=カーターの楽歴50周年記念盤。ロン=カーターというと、どうしてもマイルス=デイヴィスの黄金のクインテットやVSOPでの、魔法使いぶりの印象が強いので、こういう室内楽的ジャズを指向を有しているとは思いませんでした。往年のMJQ(Modern Jazz Quartet)とはまた違った味のある、素晴らしい演奏です。 (★★★★)
If The Star Were Mine Melody Gardot: My One And Only Thrill メロディ=ガルドーをここに取り上げるのを少しだけ躊躇しました。元々ヴォーカルを聴くことは少ないので、ジャズ・ヴォーカルというものの定義との関係で。ま、でもエリントンやマイルスの言葉を借りれば"The Music"ということで。
ジャズっぽいアプローチのシンガー・ソング・ライターと云えば、ジョニ=ミッチェルという大先達・大物がおわすわけですが、ガルドーのヴォーカルも、それなりの個性があります。力が抜けていて、洒脱な感じですね。名前が明らかにフランス系なので余計にそう思うのかも知れませんが、スキャットはシャンソンぽいです。
最初に聴いた時は夜中に合うと思ったのですが、アルバム1枚通して聴くと、休日の昼下がりも悪くないな、なんて思ったりして。
The Folorn Peach Tree Emil Viklicky Trio: Sinfonietta-The Janacek of Jazz 初めて名前を見るピアニストですが、ヤナーチェク曲集を出すくらいですし、きっとチェコ出身なのでしょう、ノーブルな雰囲気の佳作です。
まさか、『1Q84』の冒頭にヤナーチェクの'Sinfonietta'が登場するからという企画盤ではないでしょうけど(録音は'07-'08年)、全12トラックのうち、4曲がヴィクリッキーの自作、残りはヤナーチェクの作曲又はモラヴィア民謡をヤナーチェクが構成したものになっています。
バックスは信頼度抜群のジョージ=ムラツとルイス=ナッシュですが、ムラツはチェコ出身だから一本釣りの起用でしょうけど、ドラマーはナッシュでなくても良いですね。ラストの'Sinfonietta'だけは多分、地元のドラマーでプラハ録音です(このトラックのみ'07年録音)。 (★★★★)
There Is A Light that Never Goes Out Rachel Z: I Will Posess Your Heart レイチェル Zという人は、パワーを失くしていたウェイン=ショーターに喝を入れたことで一躍注目を集めた人で、ジョー=ヘンダーソンに焼きを入れたリニー=ロスネスと同じ役割を果たしていますが、音楽は勿論、全然違います。
このアルバムでは、ロック系の曲を全面にフィーチュアして、
レイチェル色で料理しています。個人的にはニール=ヤングの"Heart Of Gold"を取り上げてくれたのが嬉しいです。
華麗なる料理人。 (★★★★)
No Moe Cedar Walton: Voices Deep Within またシダー=ウォルトンかよ、って云われそうですが、彼のアルバムにはスカがありません。
今回は全8曲のうち、4曲にヴィンセント=ハーリングがテナーサックスで加わっています。彼には、エリック=アレキサンダーとのバトルに挑んだ作品もあり、これはアルトサックスでした。意外にいないアルト/テナーの両刀使いです(スティットという大物はいましたが)。このアルバムでのテナーは、1950年代のコルトレーンみたいです。意識してるんでしょうか。
ウォルトンのピアノはいつものように、綺麗なタッチとツボを心得たバッキングフレーズで、心が和みます。
曲目は、自作と、スタンダード或いはジャズメン・オリジナルが半々というところ。HighNoteレーベルはハズレがありませんね。 (★★★★)
Hymn of the Seventh Galaxy Return To Forever: Returns Return To Foreverの同窓会です。チック、ディメオラ、クラーク、ホワイト、みんな健在で嬉しいですね。
「第七銀河の輝映」や「浪漫の騎士」といった名曲あり、各人のソロ・デュオパフォーマンスもたっぷりあり、2枚組で目一杯楽しませてくれます。ディメオラとチックのデュオでの「スペイン」、最高です。
輸入盤を購入したので、よく分からないのですが、ボーナストラックが、BBCの何かのアワードの授賞式、ジョージ=マーティン(言わずと知れたビートルズその他のプロデューサー。Sirの称号を貰ってるんですね)がプレゼンターになって「浪漫の騎士」を演ってます。 (★★★★)
There Will Never Be Another You Woody Shaw: Solid これまた、不遇な晩年になってしまったトランペッター、ウディ=ショウが健在だった頃の佳作。彼のトランペットは何となく、やさしいです。甘さに流れず、しかもやさしい、というのは言葉にすれば簡単ですが、トランペットという楽器の特質を考えると、かなり個性的ですね。バックに名手ケニー=バロン(pf)、ゲストにケニー=ギャレット(as)を迎え、充実したプレイを繰り広げています。
ちなみに、プロデューサーはBlueNoteオタクのマイケル=カスクーナ、録音はルディ=ヴァン=ゲルダー、発売元はMuseレコードという環境も、ショウにとっては最良だったと思われます。 (★★★★)
Joshua Roberto Tarenzi Trio: One day I'll fly away 大相撲がモンゴルなら、ジャズはイタリアって感じの昨今。これもイタリア発の新作です。捻りの利いたロベルト=タレンツィのピアノもなかなか面白いですが、傾聴すべきはロベルト=ピストレシ(ds)のタイトなプレイです。ジャズはやはり、ドラマーがイモではいけません。全11曲のうち、ジャズメン・オリジナルがこの曲を含めて4曲、残りはタレンツィ作又はタレンツィとピストレシの共作でして、このトリオの中でピストレシがかなり重きを成しているのが分かります。 (★★★★)
The Greeting McCoy Tyner: Counterpoints ジョン=コルトレーン黄金のカルテットのマッコイ=タイナーと、マイルス=デイヴィス黄金のクインテットのロン=カーター・トニー=ウィリアムズとが組むという、夢のトリオ。'78年ライヴ・アンダー・ザ・スカイでのライヴ。和声の極限を走るマッコイの特徴が非常に鮮明な盤です。「モード・ジャズって何?」と訊かれたら、この曲を聴かせてあげましょう。左手のヴォイシングと、右手のメロディがハモっていない、でも不協和音ではない。特に、クラシックを聴き慣れている人には、マッコイの特徴をよく理解していただけると思います。 (★★★★★)
I Didn't Know What Time It Was Doug Raney: Doug Raney Trio これは、下の最新作と同じく、日本のマシュマロレコードが企画して実現した盤です。録音は1990年ですから、20年近く前のものですね。ダグをずっと支え続け、最新作のプロデュースもしているイェスパー=ルンゴーがベース、アレックス=リールがドラムスという、多分ダグにとっては理想に近いギタートリオでしょう。
ダグは愛煙家なんですね。ジャケ写の隅に灰皿が置かれ、タバコの灰らしきものが散乱しています。何しろ、初リーダー作のジャケ写ではタバコをくわえてギター弾いてますから(^^;。
選曲はかなり考え抜かれているように思います。スタンダード曲とジャズメンオリジナルを半々というところでしょうか。
この曲はサトルな感じがとても心に染みる演奏です。
あ、また全然違うアルバムが表示される(^^;;;。 (★★★★★)
Blue Monk Doug Raney: Blues,Ballads,Bebop and A Blue Girl 私の偏愛ギタリストであるダグ=レイニー久々のアルバムです。彼はどうしているのだろうと心配していました(プロデューサーズノートから察するに、私生活に色々な問題があったようです)。
父ジミー=レイニーの若き日のような剃刀の切れ味は無いかも知れませんが、彼のように、いわゆるホーンライク(管楽器的)な後ノリのシングルトーンで押しまくるタイプのギタリストは珍しくなってしまいました。もちろん、シングルトーンだけではなく、繊細なコードワークも魅力ですけど。
以前の彼のアルバムには必ず1曲、長尺で力み過ぎのスローバラッドが入っていて、ああ何か無理してるなぁ…と思わせたものですが、今作にはそういう面は無く、代わりにアップテンポの曲でも欝然とした深みがあるような気がします。
この曲は彼にしては珍しく(というか私は過去のアルバムでは聴いたことがない)セロニアス=モンクのブルース曲です。 (★★★★)
HYMN To Andromeda Chick Corea & John McLaughlin: Five Peace Band Live チック=コリアだけなら購入しなかったでしょう。ジョン=マクラフリンと組んでいるということで買いました。彼のギターは40年前から変わらない、クリアで瑞々しい音を奏でています。このへんは、ジム=ホールの影響を受けた比較的若い世代のギタリストたちの、靄がかかったモビールのような音作り(例:ビル=フリゼール)と一線を画しています。
いつまでも若く。何となく人生を考えさせられる彼のギターです。
あ、また全然違うアルバムが表示されてしまう(^^;。
I Get A Kick Out Of You Max Roach & Clifford Brown: In Concert 1950年代ジャズ界の最強グループは?多くの人はマイルスのオリジナル・クインテットを挙げると思いますが、私はローチ&ブラウンのクインテットだと信じています。
前半4曲は、レギュラーコンボとして固定されるに至ったメンバーによる演奏。後半4曲は、ローチがとりあえずブラウンを西海岸に連れてきて、寄せ集めた面子による演奏。と書くと後半の印象が悪いようですが、ローチのリーダーシップと、共演者に左右されないブラウンのプレイの高いクオリティが相俟って、水準を抜く演奏です。
でも、やはり前半4曲の方がグループとしてのまとまりと、ライヴの躍動感が適度にバランスしている、良いパフォーマンスです。ローチが華麗なドラムソロを披露するのもライブならでは。
なお、上のリンクをクリックすると、全然違う盤が表示されてしまいます。ごめんなさい。 (★★★★)
Ana Maria Kendrick Scott: Reverence ダニー=グリセットの"Form"で御紹介した若きドラマーの(多分)初リーダー作。ワンホーンですが、もう1本のホーンの代わりに名手マイク=モレノのギターを入れて、変化をつけています。ギターとの折合いを考えてか、ピアノは大半のトラックがエレピです。取り上げている曲は現代の若いジャズメンにとって「古典」であろう、ショーター(この曲)、ハンコック、"Miles Smiles"で演奏されている"Gingerbread Boy"といったところです。ラストがオーネット=コールマンの"Lonely Woman"というのが泣かせるじゃありませんか。 (★★★★)
King Cobra Danny Grissett: Form ピアノトリオの前作を聴いたときは、特に興味深いことも無く、この欄にも取り上げなかったのですが、3管フロントで挑んできた今回は、非常に出来の良いものに仕上がったと感じました。ピアノトリオよりもホーンを入れた方が面白いのは、この曲の作曲者であるハービー=ハンコックや、同じくこの盤に収録されている"Ugly Beauty"の作者であるセロニアス=モンクと同様の資質があるということかも知れません。かなり変化に富んだリズムを上手くさばいているドラマーは、まだ若いケンドリック=スコット。 (★★★★)
Just in Time Barney Kessel: On Fire 近代的ジャズギターの正統代表者、バーニー=ケッセルの素晴らしいライヴ盤です。ジャズ史上屈指のギタリストというと、どうしてもウェス=モンゴメリーをイメージする方が多いのは仕方の無いところでしょうけど、ケッセルがアップテンポの曲で聴かせるコードカッティングとシングルトーンの交錯も、ぞくぞくします。無論、レイ=ブラウン・シェリ=ーマンと組んだ"The Pole Winners"シリーズはファンの基本コレクションですが、ライヴで燃えるケッセルの魅力も是非味わってください。 (★★★★★)
The Kid From Red Bank Count Basie: The Atomic Mr. Basie ビッグバンドはあまり聴かない狂四郎ですが、ベイシーとエリントンは別。これは、核実験きのこ雲のジャケット(ちょっと抵抗感あり)で有名な1950年代の傑作。メンバーは、サド=ジョーンズ、フランク=フォスター、エディ"ロックジョウ"=デイヴィスといった面々が揃ってます。ベイシーのバンドはエリントンと違って代々、音楽監督的なアレンジャーの手によって名作が生み出されてきました。このアルバムも、ニール=ヘフティのアレンジが冴えてます。 (★★★★★)
Goodbye Eric Alexander: Lazy Afternoon "Gentle Ballads"シリーズの4作目。Gentleの触れ込みに反して、内容はかなり緊張感があり、かつスピリチュアルな感じも漂わせています。ピアノが、One For All等で組んでいるディヴィド=ヘイゼルタインではなくマイク=ルドンだからかも知れませんが、意識してか、無意識にか、コルトレーン臭い部分もあります。やっぱり意識してるんですかね。すっかり貫禄がついてしまって。もちろん、出来はいいです。真昼に聴いてはいけません。少し涼しい丑三つ時にどうぞ。 (★★★★)
The Man I Love Ceder Walton: Seasoned Wood 絶頂期のジャズ・メッセンジャーズを支えたシダー=ウォルトン。彼の良いところは品のあるタッチと、作編曲の才能でしょうか。この有名曲も少しテンポを上げて、アレンジもちょびっと大胆に施してます。メンバーも、ドラマーにはこれまた品の良い名手アル=フォスターを起用したりして、とても聴き易い仕上がりです。派手さには欠けるけど、長い間ブレることなく、良い仕事を積み重ねてきた人のキャリアの重みを感じる1枚です。 (★★★★★)
Jackpipe One For All: Return Of The Lineup 中堅どころの腕達者を集めたユニット"One For All"。前作が"The Lineup"だったので、「帰ってきたLineup」というわけです。
ユニットとしてのまとまりもあるし、各人の個性もたっぷり味わえる一粒で二度美味しいグループですね。フロントラインの「顔」はやはり、現代メインストリームジャズのテナータイタンになったエリック=アレキサンダーですが、ジム=ロトンジの存在感も無視できない。リズムセクションにもデイヴィッド=ヘイゼルタインとジョー=ファーンズワースという名手を揃えて、隙無し。初めてジャズを聴く人も、聴き込んだ玄人さんも大満足。 (★★★★)
Mode To John 山中千尋: Lach Doch Mal すっかり山中千尋にハマっている私ですが、この曲、"John"とはコルトレーンのことだと思われます。トリビュートなのか、パロディなのか、マッコイ=タイナーそっくりのペンタトニックスケールのヴォイシングが微笑ましいですね。 (★★★★)
E.S.P. Miles Davis: E.S.P. 「黄金のクインテット」の代表作。冒頭のこの曲で一発K.O.ですね。アンソニーのシャープ極まりない牽引力抜群(前のめりに突っ込み気味)のシンバルワーク、ツボを心得たロン=カーターのべごぼんベース、モードとクロマチックのお手本のようなマイルスのソロ…でも、この曲以外は割と地味な感じですね。尤も、ミドルテンポ以下の曲こそ、マイルスのミュート金縛り空間が冴える場面でしょう。 (★★★★★)
Autumn Leaves David Kikoski: Mostly Standards アルバムタイトルに反して、いわゆるスタンダード曲は、これと"Old Folks"くらいかな。最初と最後は、キコスキのオリジナル曲で締めてます。
このトラック、4分近くベースソロが続いて、もー我慢の限界!というところで、キコスキらしいスピード感溢れる『枯葉』になります。あとは急流に身を任せて、勝手に快楽を得られるようになってます。 (★★★★)
Overdrive J.J.Johnson: Complete Recordings J.J.Johnson featuring Bobby Jaspar J.J.ジョンソンは、唯一無二の存在です。完璧なるスライドトロンボーンに加え、作編曲の才もあって、文句をつけようにも、つけ入る隙がありません。シャープで速いフレージングと、温か味のある音。この盤は、"featuring"というより"introducing"ボビー=ジャスパーという感じですね。ボヘミアのライヴも収録されているお得盤。 (★★★★)
Greensleeves Paul Desmond With The Modern Jazz Quartet: Live In NewYork 1971 ポール=デズモンドのアルトは、クールにしてウォームという、二律背反を見事に達成しているという点で、絶対的個性を発射しています。特にこの盤は、MJQとの共演ということで、それが一層強調されているように思います。
冷たくて、温かくて、優しい、彼のアルトを聴いていると、抗不安薬を服用したときのような(アブナイな~)安心感に包まれます。
管楽器は演奏者の個性がモロに出ますけど、この盤は何度聴いても飽きることがありません。 (★★★★★)